社会人3年目までに考える「市場価値」とは何か?
―転職せずに“選ばれる人”になるための視点
「このままの働き方でいいのか」「転職した方がいいのか」と悩むことは、誰にでもあるはずです。特に、社会人1〜3年目の時期は、仕事にも慣れてきた一方で、この先のキャリアが見えず漠然とした不安を抱えやすい時期かもしれません。
でも、焦って動き出す前に知っておきたいのが、“今の自分の市場価値”です。
「市場価値」と聞くと、「転職」を前提とした話だと思われがちです。しかし、実は市場価値を高めるという視点は、今の会社で成果を出し、評価されるためにも欠かせない考え方です。市場価値を正しく理解し、高めていくことは、転職の有無に関わらず、あなたのキャリアを豊かにする土台となります。
本記事では、社会人3年目までに知っておくべき「市場価値の考え方」と、「選ばれる人」になるための具体的な行動指針を解説します。
この記事の重要ポイント
- 市場価値=「今の会社の外でも求められる力」
- キャリアの選択肢を増やすには、「スキル×再現性×伝え方」がカギ
- 「選ばれる人」になるには、自分の経験を言語化する練習が不可欠
- 市場価値を知ることで、今の会社に“残る”選択にも納得できる
- 成長し続けるキャリアには、「自走力」と「発信力」が共通している
こんな人におすすめ
- 今の仕事にやりがいや成長を感じにくくなってきた
- 転職する勇気はないけれど、漠然とした不安がある
- 自分のスキルや強みが何なのか分からない
- 「市場価値」という言葉に触れるたび、焦りを感じる
- キャリアに納得感を持って行動したいと感じている
そもそも“市場価値”ってどういう意味?
「市場価値」という言葉はよく耳にするものの、その意味を正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。まずは、この概念を深く掘り下げてみましょう。
定義:市場価値とは「今の会社を離れても、他社で評価される力」のこと
市場価値とは、あなたが持つスキルや経験、実績が、所属している会社以外の「市場」(つまり、他の会社や業界)でどのくらい求められているかを示す価値のことです。
たとえ今の会社で評価されていても、それが「自社独自のやり方」や「人間関係」に依存している場合、市場価値は高いとは言えません。市場価値を高めるということは、どの会社に行っても通用する、 「ポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)」 を磨くことなのです。
ポータブルスキルの具体例
- 課題解決力: 問題の本質を見抜き、解決策を導き出す力。
- 対人関係構築力: 立場や役割が違う人とも円滑に協力し、チームを動かす力。
- 目標達成力: 困難な目標に対しても、具体的な計画を立て、実行し、成果を出す力。
- 情報収集・分析力: 必要な情報を効率的に集め、そこから価値ある洞察を引き出す力。
これらのスキルは、どのような職種や業界にいても必ず求められるものであり、あなたのキャリアの土台となります。
よくある勘違い①「スキルが高ければ市場価値がある」
「簿記1級を持っている」「プログラミングができる」といった専門スキルは、確かに市場価値の重要な要素です。しかし、それだけでは十分ではありません。
たとえば、プログラミングスキルがあっても、チームで円滑にコミュニケーションを取る力がなければ、プロジェクトで活躍することは難しいでしょう。市場価値は、専門スキルと、課題解決力や対人スキルといった 汎用的なスキルの「組み合わせ」 によって決まります。この「スキルのかけ算」こそが、あなただけのユニークな価値を生み出します。
よくある勘違い②「転職する気がないから関係ない」
「自分は今の会社でずっと働くつもりだから、市場価値なんて関係ない」と思っていませんか?これは大きな間違いです。
市場価値を高めるための行動は、今の会社でのあなたの評価を上げることにも直結します。たとえば、客観的な成果を言語化する力は、上司への報告や企画書の作成に役立ちます。また、汎用的なスキルを磨くことは、社内での部署異動など、あなたのキャリアの選択肢を広げることにもつながります。
「市場価値」は“転職のため”だけの概念ではなく、今の会社でも自分の価値を高めるために役立つ視点です。
市場価値を構成する3つの要素
市場価値を高めるためには、闇雲に努力するのではなく、構成する要素を理解し、それぞれを意識的に伸ばしていくことが大切です。市場価値は、以下の3つの要素で構成されています。
要素①:スキルの汎用性
スキルの汎用性とは、 「会社や業界が変わっても通用するスキル」 のことです。
汎用性の高いスキルの具体例(職種別)
- 営業職:
- 顧客の課題をヒアリングする力: 顧客自身も気づいていない課題を引き出す能力は、どの業界でも重宝されます。
- 交渉力・折衝力: 利害関係が異なる人同士を調整し、win-winの関係を築く力。
- プレゼンテーション能力: 複雑な内容を分かりやすく伝え、相手を動かす力。
- 事務・サポート職:
- 業務効率化スキル: Excelマクロや自動化ツールを使って、定型業務を短縮する力。
- 文書作成力: 誰が読んでも誤解のない、正確で分かりやすいビジネス文書を作成する力。
- 情報整理・管理能力: 大量の情報を体系的に整理し、必要な時にすぐに取り出せるようにする力。
よくある勘違いとして、「自社独自のツールばかり使っている=市場価値が上がらない」というものがあります。しかし、重要なのはツールそのものではなく、そのツールを使って 「何を生み出したか」、そして「どんな思考プロセスでそれを実現したか」 です。
要素②:再現性のある成果
再現性のある成果とは、 「運や偶然に頼らず、いつでも同じような成果を出せる力」 のことです。
再現性のある成果の具体例
- 単なる成果: 「売上目標を120%達成した」
- 再現性のある成果: 「顧客リストをABCでランク付けし、優先度の高い顧客に絞って訪問することで、売上目標を120%達成した」
単発で大きな成果を出したとしても、それがなぜ成功したのかを説明できなければ、それは再現性のあるスキルとは言えません。「なぜ顧客は私の提案を受け入れたのか?」「どういう手順で業務を改善したのか?」と、常に自問自答する習慣をつけましょう。
再現性のある成果は、あなたの 「成功の方程式」 を言語化することに他なりません。この方程式を複数持つことで、あなたはどんな環境でも活躍できる人材になります。
要素③:自分の強みを伝える力
どれだけ素晴らしいスキルや成果を持っていても、それを相手に「分かりやすく・納得感を持って」伝えられなければ、評価されることはありません。
伝える力が必要な場面
- 履歴書や職務経歴書でのアピール
- 面接や上司との評価面談
- 社内での企画提案やプレゼンテーション
たとえば、上司への報告一つとっても、「〇〇が完了しました」だけでなく、「〇〇を完了しました。完了までに課題が△△ありましたが、××という工夫で乗り越えました」と伝えることで、あなたの努力や課題解決力が伝わり、評価につながります。
この「伝える力」は、単なる話術ではありません。自分の経験を客観的に整理し、相手が求める情報に合わせて再構成する力です。
3ステップで考える「市場価値の棚卸し」
市場価値を高めるための第一歩は、まず「今の自分の市場価値」を知ることです。難しく考える必要はありません。以下の3つのステップで、自分の経験を客観的に見つめ直してみましょう。
ステップ①:スキル・実績の洗い出し
まずは、入社から現在までのすべての経験を、紙やノートに書き出してみましょう。
「実績棚卸しシート」の作成
担当業務 | 行動内容 | 工夫・思考 | 成果(定量・定性) | 得られたスキル |
---|---|---|---|---|
顧客対応 | 問い合わせの電話対応、メール返信 | FAQを独自に作成し、返信テンプレート化 | 対応時間を1件あたり5分短縮 | 業務効率化、文書作成力 |
営業提案 | 新規顧客へのサービス提案 | 顧客の業界動向を徹底的に調査 | 受注率が3ヶ月で10%向上 | 情報収集力、論理的思考力 |
社内調整 | 部署間の意見対立を調整 | 各部署の目的をヒアリングし、共通目標を設定 | プロジェクトがスムーズに進行 | 対人関係構築力、ファシリテーション力 |
Google スプレッドシートにエクスポートして、あなただけのシートを作成してみましょう。
このシートを埋めることで、自分が無意識に行っていた「工夫」や「思考」が可視化されます。特に効果的なのが、担当業務を「Before→After」で整理することです。
事例:Before→After
- Before: 顧客からの問い合わせ対応に時間がかかっていた
- After: FAQを整備し、対応時間を20%削減できた
この経験から得られた市場価値: 「業務フロー改善力」「ドキュメンテーション能力」
ステップ②:言語化・ストーリー化
洗い出したスキルや成果を、具体的なストーリーに組み立ててみましょう。このストーリーは、相手にあなたの価値を伝えるための重要なツールです。
ストーリーの構成例(STARメソッド)
- Situation(状況): どんな状況で、どんな問題があったか?
- Task(課題): その状況で、あなたに課せられた課題は何だったか?
- Action(行動): その課題を解決するために、あなたは具体的に何をしたか?(特に工夫点を詳しく)
- Result(結果): その結果、何がどう変わったか?(定量的な数値で示す)
この流れを意識することで、単なる「頑張った報告」ではなく、「どのような思考で成果を生み出したか」を伝えられるようになります。面接や社内でのプレゼンでは、このストーリーを1〜2分で話せるように練習しておきましょう。
ステップ③:他者視点で見直す
自分で考えたストーリーは、客観性に欠けていることがあります。そこで、第三者からのフィードバックをもらいましょう。
フィードバックの例
- 上司や先輩に「この成果って、評価されるポイントありますか?」と聞いてみる
- 信頼できる同僚に「私の仕事の強みって何だと思う?」と尋ねてみる
他者からの視点を得ることで、「自分が当たり前だと思っていたことが、実は高いスキルだった」という新たな発見があるかもしれません。他者視点を取り入れることは、自己理解の精度を高めるために不可欠です。
よくあるQ&A(市場価値への誤解と不安)
Q1. 市場価値って結局“転職ありき”の話じゃないの?
→ いいえ、違います。 市場価値を知ることは、「いつでも転職できる自信」を持つことです。この自信は、今の職場で過度に不安を感じることなく、自信を持って働くための土台になります。結果的に、より良いパフォーマンスを発揮できるようになり、今の会社での評価も向上するという好循環が生まれます。
補足: 転職市場で自分の価値を客観的に知ることは、今の会社の 「居心地の良さ」や「待遇」 を冷静に判断する材料にもなります。「今の会社で働いていることが、どれだけ恵まれているか」を再認識することで、今の仕事へのモチベーションが上がることもあります。
Q2. 自分には“専門スキル”がないのですが…
→ 「専門スキル」=「資格」ではありません。 業務改善、関係調整、提案資料作成、コスト削減など、日々の業務の中であなたが工夫し、成果を出した 「再現性ある行動」 こそが、あなたの市場価値です。たとえば、「誰とでも円滑にコミュニケーションが取れる」というのも、立派な市場価値の高いスキルです。
補足: 専門スキルがないと悩む方は、「職務経歴書」の代わりに「業務実績シート」を作成してみましょう。
- NGな書き方: 「営業事務を担当。見積もり作成や電話対応を行った。」
- OKな書き方: 「営業事務を担当。見積もり作成のフローを改善し、担当営業の業務時間を月10時間削減。電話対応では、顧客からの問い合わせ内容をデータベース化し、対応の迅速化に貢献。」
このように、具体的な「行動」と「成果」を記述することで、専門スキルがないように見えても、高い 「業務改善スキル」や「課題解決スキル」 があることが伝わります。
Q3. 他人と比べると焦ってしまう…
→ 焦る必要はありません。 市場価値を高める上で重要なのは、誰かと比較することではありません。 「昨日の自分より伝えられるようになったか」「半年前の自分より、言語化できる成果が増えたか」と、 過去の自分と比べる ことが大切です。 自分のペースで着実に成長している実感を持つことが、自信につながります。
Q4. 漠然とした不安を解消するにはどうすればいい?
→ 「見えないものを言語化する」 ことから始めましょう。 漠然とした不安の正体は、「このまま今の会社にいて、自分は成長できるのだろうか」「今の仕事が将来どうつながるのか分からない」という、将来への不透明感です。
この記事で紹介した「市場価値の棚卸し」を実践してみてください。自分のスキルや成果を言語化し、可視化することで、漠然とした不安が「具体的な課題」に変わります。課題が明確になれば、次に何をすべきかが自然と見えてくるはずです。
まとめ:あなたのキャリアは「自走力」で変わる
市場価値とは「今の会社の外でも通用する力」であり、それは「スキル」「成果」「伝える力」の3つが揃ってこそ“選ばれる人”になります。
キャリアの不安は、 「自分を理解し直す」 ことで、次の行動に変えられます。
「市場価値を高める」というと難しそうに聞こえるかもしれませんが、始めることはとてもシンプルです。まずは今の自分の仕事を「どんな価値として見せられるか?」を考えることから始めてみましょう。未来のキャリアに、今日の1歩がつながります。