1. マーケティング戦略の土台を築く:市場調査のフェーズ
マーケティング戦略を立てる上で、まず取り組むべきは「市場調査」です。狙いとする市場がどのような状況にあるのか、これを深く分析することからすべては始まります。
市場調査では、先人たちの知恵である「フレームワーク」という思考の枠組みを多く用います。代表的なものとして、SWOT分析、3C分析、5 Force分析が挙げられます。
•	SWOT分析:
企業を取り巻く外部環境(機会・脅威)と内部環境(強み・弱み)を分析するフレームワーク。動画内では「PEST分析」が外部環境分析として詳しく取り上げられています。
•	3C分析:
自社(Company)、競合(Competitor)、顧客(Customer)の3つの要因を分析し、自社の状況を把握します。
•	5 Force分析:
自社を取り巻く5つの競争要因(新規参入の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、既存企業間の競争)をもとに、それがどの程度自社の脅威となるのかを分析します。
これらのフレームワークを活用しながら、市場の全体像を把握し、具体的な施策に繋がるインサイトを得ていくことが市場調査の目的です。
1-1. 【実践ワーク:1】Web競合調査で市場を俯瞰する
本格的な市場分析に取り組む前の準備運動として、まずはWeb競合調査から始めましょう。これにより、調査対象のテーマ領域にどんなサービスがあるのかをざっくりと知ることができます。
◆ワークの手順◆
1.シークレットモードにする:
普段使いのブラウザでは検索履歴に合わせて表示順が変動する可能性があるため、平等に市場を見るためにシークレットモードに設定します。
2.指定された検索ワードで検索する。
3.上位10個のサイトをリストアップする:
検索結果の上位10個のサイトを上から順に並べ、どのようなサービスがあるのかを可視化します。
4.サイトの種類を判断する:
上位10サイトが「オーガニックサイト」と「リスティング広告サイト」のどちらに該当するかを判別します。
<オーガニックサイト>
Googleなどの検索エンジンが「自然に適切だ」と判断し表示するサイトです。検索結果の上部に「スポンサー」の表示がないものがこれにあたります。上位に表示されるほど、検索者にとって情報が揃った良いサイトだとGoogleのAIが判断していると言えます。
<リスティング広告サイト>
検索エンジンの検索結果に連動して表示される広告のことです。企業がターゲットに近い人の検索エンジン上に表示されるように課金しているサイトであり、検索一覧の上部に「スポンサー」と表示されています。
5.サイトの内容を判別する:
さらに、そのサイトが「自社のサイト」なのか、それとも複数の企業の製品がまとめられた「比較サイト」や「まとめサイト」なのかを判別しましょう。まとめサイトの場合、企業がお金を払って自社製品を掲載してもらっている可能性があるため、市場の課金状況を把握する上で重要な情報となります。
このワークから得られるインサイト
サイトの表示形式や内容を区別することで、市場の状況をより深く捉えることができます。
例えば、課金している企業が多い市場であれば競合が多い市場である可能性があり、逆に少ない市場は参入企業も少なく、需要があまりない分野である可能性も考えられます。
6.顧客視点でのサービス評価
最後に、洗い出したサービスを見て、「自分であればどのサイトを使うのか」を考えてみてください。マーケティングの本質は顧客視点にあります。この視点が抜けると、ただの企業調査で終わってしまい、本末転倒になってしまいます。
ワークに取り組む際のポイント
•	ロジカルシンキングの活用:単に事実を並べるだけでなく、「なぜその検索結果になっているのか」ともう一歩深く考えてみましょう。
•	お客様の目線に立つ:常に「もし自分がお客さんだったら」という視点を忘れずにサービスを評価することが重要です。
1-2. 【実践ワーク:2】本格的な市場調査で市場の髄に迫る
Web競合調査で市場の全体像を掴んだら、いよいよ本格的な市場調査に取り組みます。ここでは、市場の構造、規模、推移、外部環境、そして市場に眠る課題まで深く掘り下げていきます。
<市場調査で取り組む5つのステップ>
1.	市場の概要・構造を掴む
市場の全体像と、それを構成する要素がどうなっているのかを構造化し、市場の構成や骨組みを整理します。
市場の分類:
例えば、新卒採用市場であれば、「エージェント型」「求人広告型」「スカウト型」「採用代行型」のように分類できます。また、ターゲット層(例:文系・理系)で分解して考えることも可能です。
主力企業と市場状況:
各市場における主力企業を特定し、その企業が市場を独占しているのか、新興勢力と混在しているのかといった状況も整理しておきましょう。
2.	市場の規模を算出する
その市場の大きさを測るため、市場の売上高を算出します。詳細な算出が難しい場合は、おおよそで構いません。ざっくりと市場の大きさや成長性を捉えることが目的です。
3.	市場の推移を捉え、未来を予測する
過去のデータや市場に関する情報を集めながら、その市場がこれからどのように変化していくのかを考えます。現在市場規模が大きくても、未来に成長性がなければ参入のリスクが高まります。長期的に顧客ニーズがある領域なのか、情報を収集して未来の市場を推測しましょう。
4.	PEST分析を用いて市場の外部環境を整理する
市場の状況を、市場の中からだけでなく、市場の外から捉えます。具体的には、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの外部環境から分析します。
<深掘りが鍵>
PEST分析で分かった市場の状況は、必ず「なぜそのようになっているのか」という背景までセットでまとめましょう。
例えば、「社会的要因としてエージェントの差別化が求められる」という結論だけでなく、「学生のキャリアの多様化やダイレクトリクルーティングサービスといった新興サービスの普及・加速によって、差別化が求められている」という背景までまとめることで、市場の真髄にたどり着くことができます。
5.	市場の課題を考える
これまでの調査情報やPEST分析を元に、「どんな課題が市場にまだ眠っていそうなのか」を考えます。この課題こそが、お客様のニーズとなりうる重要な要素です。
<ワークに取り組む際のポイント>
•	ロジカルシンキングの活用:
Web競合調査と同様、分析する際は情報に対してもう一段深く考えることを意識しましょう。
•	お客様の目線に立つ:
生産者としての目線だけでなく、消費者(顧客)の目線も忘れずに客観的に物事を見ることが重要です。
2. 顧客に価値を届ける基本戦略:STPの策定
市場調査を通じて、狙いとする市場の状況を深く理解したら、次はその市場で「自社は誰に、どんな価値を届けるのか」という基本戦略を立てていきます。ここで活用するのが、STPというフレームワークです。
STPとは、以下の3つの頭文字を取ったものです。
•	Segmentation(セグメンテーション):
市場を細分化する
•	Targeting(ターゲティング):
ターゲットを絞り込む
•	Positioning(ポジショニング):
自社の立ち位置を明確にする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1. セグメンテーション:市場を細分化し、顧客像の解像度を上げる
セグメンテーションとは、大きな市場を何らかの基準で小さなセグメント(塊)に分けることです。
例えば、クラスメートを様々な基準で細分化するように、市場を細かく切り分けることで、実際にその市場にどのようなお客様がいるのかという解像度を上げていきます。
重要な切り口 単に年齢や性別といった分かりやすい属性で切り分けるのではなく、お客様の価値観や行動の変化が生まれるような「意味のある切り口」で分解することを意識しましょう。
例えば、「外交的な人」と「内向的な人」では、接しやすいと感じる人の価値観が変わり、必要なサービスも異なるかもしれません。このように意味のある切り口でセグメントを分けることで、より意味のある戦略に繋がっていきます。
2-2. ターゲティング:最も優位性を築ける顧客層を選ぶ
セグメンテーションで切り分けたセグメントの中から、最も自社が優位性を築けるセグメントを選び、そこをターゲットと定めます。
これにより、「自社はどのような顧客を狙うのか」をより明確にしていきます。
2-3. ポジショニング:ターゲット市場でユニークな立ち位置を確立する
ポジショニングとは、定めたターゲットの市場において、自社の製品やサービスが他社のものよりも魅力的であるとお客様に認知してもらうために、ユニークで魅力的なポジションを見つけることです。
つまり、「価値を届けたいお客様に対して、どのような価値を実際に届けていくのか」を明確にしていきます。
◆STPの進め方◆
STPは必ずしも順番通りに行う必要はありません。例えば、ポジショニングから始めて自社の強みを明確にしてから、それに合うセグメントを絞り込むことも可能です。STPは相互に影響し合う要素なので、考えやすいステップから取り組んでいきましょう。
◆なぜSTPが重要なのか?◆
どれだけ優れた商品を作ったとしても、それがお客様に届かなかったり、そもそもお客様にとって価値として認識できなければ、購入には至りません。
STPでは、セグメンテーションとターゲティングで「どのお客様に価値を届けたいのか」を定め、ポジショニングで「お客様にとって自社を使うメリットがどのようなものなのか」を考えることが非常に重要となるのです。
3. ポジショニングマップで自社の立ち位置を可視化する
STPの考え方を活用し、ポジショニングマップを作成することで、お客様のニーズに対し、自社であればどのポジションで価値を提供できるのかを可視化することができます。
3-1. ポジショニングマップとは?
ポジショニングマップとは、縦軸と横軸の2軸で作成されたマトリックス上に、業界の製品やサービスを配置することで、業界内でのポジションを確認するための手段です。
3-2. ポジショニングマップ作成の5つのステップ
1.セグメントを決定する
前半で行った市場分析をもとに、市場を小さな塊に分け、どの層を狙っていくのかを具体化します。この際、お客様の価値観や行動の変化が生まれるような、意味のある切り口で分解することを意識しましょう。
2.ターゲットの購買決定要因を洗い出す
ターゲットが商品を購入する際に重要視すると考えられるポイントをピックアップします。例えば、内向的な男性であれば、「聞き上手」「話し上手」といった要素が、親しくなりたい人を選ぶ際の重要な要素になるかもしれません。市場分析で得た情報も踏まえながら洗い出しましょう。
3.2つの軸を設定する
洗い出した購買決定要因の中から、ポジショニングマップに取り上げる2つの軸を定めます。例えば、「聞き上手・話し上手」という軸と「運動が得意・勉強が得意」という軸のように設定します。 この時、それぞれの軸を構成する2つの要素は、対義の意味になるように選択しましょう。
4.競合他社を配置する
定めた横軸と縦軸のマトリックス上に、競合他社の製品やサービスを配置していきます。これにより、各セグメントにおける競合の立ち位置が明確になります。
5.自社のポジションを検討する ポジショニングマップが完成したら、それを見て「どのセグメントであれば優位性を築けそうなのか」「どのセグメントを狙っていくのか」を具体的に見定めていきましょう。競合が密集していない空白地帯に、お客様のニーズがあるかを確認しながら、自社ならではの価値を提供できるポジションを探します。
3-3. ポジショニングマップ作成時の3つの注意点
ポジショニングマップを作成する際には、以下の3つの点に注意が必要です。
1.独自ポジションを築けるスペースを見つけられているか
マップを作成してみたものの、競合が真ん中に集約してしまったり、特定の軸が機能していなかったりする場合があります。これは、設定した軸がその市場において購買決定の重要な要因になっていない可能性を示唆します。
見直し方:
マップがうまく機能しない場合は、もう一度市場分析に戻り、「この市場で本当に大事なポイントは何なのか」を見つめ直し、新しい軸を検討してみましょう。
市場の絞り込み:
それでもうまくいかない場合は、見ている市場が大きすぎる可能性があります。その際は、市場をもう少し絞って考えてみてください。
2.横軸と縦軸の相関関係が低いものに設定されているか
縦軸と横軸に相関関係があると、分布が一直線になってしまい、空白が生まれづらくなります。ポジショニングマップを作る目的は、他社の中で自社ならではの価値を見つけ出すこと、競合が密集していない位置を見つけることです。そのためにも、相関のない軸を選択するようにしましょう。
3.ターゲットサイズが十分にあることを確認する
マップ上の空白箇所を見つけたとしても、そこに安易に飛びつくのは危険です。例えば、「競合がいないから」といって、一杯1000万円の超プレミアムコーヒーを提供すると定めても、購入してくれるお客様は現れるでしょうか? 必ず、その空白のセグメントに「お客様の需要が果たしてあるのか」、つまり実際にターゲットとなるお客様がいるセグメントなのかをセットで考えるようにしましょう。
STPとポジショニングマップは、相互に行き来しながらブラッシュアップしていくものです。一度作成して終わりではなく、常に市場の変化や顧客ニーズと照らし合わせながら改善を重ねていくことが成功への鍵となります。
4.マーケティング戦略思考の活用で仕事の質を高める
ここまで、マーケティング戦略における市場調査とSTPの考え方、そして実践ワークについて解説してきました。このようなマーケティング戦略の考え方を活用することで、単に戦略立案のスキルが身につくだけでなく、あなたの仕事の質そのものが大きく向上します。
身につく視点
マーケティングの考え方を学ぶことで、あなたは「顧客」「市場」「競合」をどう見るかという視点が身につきます。
そして、「誰のための、何のための提案か」という顧客視点で考える癖が身につくため、思いつきではなく、意味のある提案を組み立てられるようになるでしょう。
これは、マーケティングが「お客様に買ってもらえる仕組み」を作ることだからです。どんな業界、職種であっても、必ずあなたの仕事の先にはお客様がいます。
だからこそ、マーケティング戦略の考え方は、あらゆる職種において応用し、活用することができるのです。
様々な職種での活用例
•	営業職:
提案資料を作成する際、ポジショニングマップを活用することで、競合と比較して自社の何が優れているのかをより明確に伝えられるようになります。
•	販売・接客業:
来店者の年齢層、性別、時間帯、購入履歴などから、どのような層にどんな商品が求められているのかを具体的に分析し、店舗のレイアウト最適化や品揃えの改善に活かすことができます。
•	カスタマーサポート:
セグメンテーションによってお客様のニーズを細分化することで、それぞれのお客様に最適な対応が可能になり、顧客満足度の向上に繋がります。
まとめ
このように、マーケティング戦略の考え方は多様なシーンで活用できます。自社ならではの価値を届け、お客様に選んでもらえることは、結果的に企業の成長や利益に直結します。
この思考法を持って仕事に取り組む人は、どんな企業や職種でも非常に活躍できる人材となるでしょう。
本記事では、マーケティング戦略の重要な土台である「市場調査」と「基本戦略(STP)」について、以下の内容を解説しました。
•	市場調査:
Web競合調査から始まり、市場の概要・構造、規模、推移、そしてPEST分析による外部環境の整理、市場課題の特定まで、市場を深く理解するためのステップとポイントを学びました。
•	STPの策定:
「Segmentation(市場細分化)」「Targeting(ターゲット選定)」「Positioning(立ち位置明確化)」の各要素を理解し、顧客に価値を届けるための基本戦略の重要性を確認しました。
•	ポジショニングマップ:
STPの考え方を活用し、競合との差別化を図り、自社が優位性を築けるポジションを可視化するための具体的な作成方法と注意点について解説しました。
これらのマーケティング戦略の考え方を日々の業務に活かすことで、あなたは顧客・市場・競合に対する深い洞察力を養い、論理的かつ顧客視点に立った提案ができるようになります。ぜひ、この思考法を仕事の中で実践し、さらなる活躍を目指してください。

