データ分析は「考え方」と「手順」を習得すれば誰でも出来る
「データ分析って難しそう…」「数字を見ても、何を読み取ればいいか分からない…」
そう感じている方は多いのではないでしょうか。
ビジネスの現場では、日々大量のデータが生まれています。営業日報、売上データ、顧客リスト、Webサイトのアクセスログなど、私たちの身の回りには、実は「宝の山」とも言えるデータが溢れています。しかし、「その宝をどうやって掘り起こせばいいのか分からない」という声もまた、よく耳にします。
「データ分析」と聞くと、統計学の難しい数式や、専門的なツールを駆使する姿を想像してしまいがちです。しかし、データ分析の真髄は、そうした専門知識やツール操作にあるのではありません。最も重要なのは、 正しい“考え方”と“手順” を押さえること。これさえできれば、Excelなどの身近なツールでも、あなたの仕事に役立つ確かな洞察を得ることができます。
この記事では、データ分析に苦手意識がある社会人1〜3年目の方に向けて、今日からすぐに実践できるデータ分析の超基本を、難しい専門用語を一切使わずに解説します。読み終わる頃には、データを見る目が変わり、自信を持って「データで説明する」ことができるようになるでしょう。
この記事のポイント
- データ分析は「目的 → 集める → 整理 → 読み取る → 行動」の流れが基本。この順番を徹底することが成功への鍵です。
- 難しい数式よりも “正しい問い” を立てることが何よりも大切。問いが明確であれば、答えは必ず見つかります。
- 高価なツールは不要。ExcelやGoogleスプレッドシートなど、身近なツールで十分な分析が可能です。
- 完璧な分析を目指す必要はありません。小さな分析でも、それが意思決定に役立てば大きな価値になります。
こんな人におすすめ!
- データを見ても意味を読み取れず、ただ眺めて終わってしまう方
- 上司やクライアントに説得力のある資料や報告を作りたい方
- データ分析の基礎を短期間で身につけ、業務に活かしたい方
- 難しい統計ではなく、日常業務で役立つ実践的な分析手法を知りたい方
なぜ「データ分析=難しい」と感じるのか?
多くのビジネスパーソンがデータ分析を難しいと感じるのには、共通の理由が存在します。これらの誤解を解き、正しい認識を持つことが、データ分析への第一歩となります。
1. 専門用語や統計のハードルが高く見える
「回帰分析」「クラスター分析」「有意差検定」といった専門用語や、複雑な数式に直面すると、「自分には無理だ」と感じてしまいがちです。しかし、ビジネスの現場で求められる分析の多くは、そこまで高度な知識を必要としません。
たとえば、営業成績の分析であれば、平均値や前年比、増加率といった、基本的な指標を理解するだけで十分なケースがほとんどです。高度な分析は、ビジネスの目的がより複雑になった時に、必要に応じて学べば問題ありません。
2. ツール操作=分析だと思い込んでしまう
「Excelの関数を使いこなせる」「BIツールを操作できる」といったツール操作のスキルと、データを読み解く “分析スキル” は全くの別物です。ツールはあくまで分析の効率を高めるための 「手段」 に過ぎません。どんなに高性能な包丁を持っていても、料理のレシピや食材の知識がなければ美味しい料理が作れないのと同じです。
「このツールを使えばすごい分析ができるはずだ」という期待は、多くの失敗につながります。 大切なのは、 「何を明らかにしたいのか」 という目的を明確に持ち、その目的に合わせてツールを使いこなすことです。
3. 「何を知りたいのか」を決めずにデータを見てしまう
最も多い失敗パターンが、 「目的」 が不明確なまま分析を始めてしまうことです。「とりあえずデータを見てみるか」とExcelを開いても、何をどう見ればいいか分からず、ただ数字を眺めるだけで終わってしまいます。これでは、時間ばかりが過ぎてしまい、何も得られません。
データ分析は、 「特定の課題を解決する」「意思決定の精度を高める」 といった明確な目的があって初めて価値を発揮するものです。
Point: データ分析の本質は “数字の整理”ではなく、“意思決定のための材料作り” です。この本質を理解することで、データ分析は一気に身近なものになります。
今日からできるデータ分析の実践ステップ
データ分析は、ある特定の 「問い」 に答えを見つけるためのプロセスです。ここでは、初心者がまず押さえるべき5つの基本ステップを、具体的な例を交えながら、より詳しく解説します。
ステップ1:目的を決める(問いを立てる)
分析を始める前に、 「なぜこの分析をするのか?」 という目的をはっきりさせることが最も重要です。この段階でつまずく人が多いですが、難しく考える必要はありません。まずは、あなたの仕事の中にある「なぜ?」や「どうすれば?」といった疑問を書き出すことから始めましょう。
【具体的な例】
- 営業職の場合:「最近、売上が減少している気がする。原因を特定したい」「特定の顧客からのリピート購入が減っているのはなぜだろう?」
- 事務職の場合:「請求書の処理に時間がかかっている。どこに無駄があるのか知りたい」「経費の発生に季節的な傾向はあるだろうか?」
- マーケティング職の場合:「Webサイトの離脱率が高いらしい。どのページに問題があるのか知りたい」「SNSのフォロワーが伸び悩んでいる原因は?」
このように、最初に具体的な問いを設定することが、分析の成功を左右します。問いが明確になれば、それに合わせて必要なデータや分析方法が自然と見えてきます。
ステップ2:必要なデータを集める
目的が定まったら、その問いに答えるために必要なデータを集めます。この時、「とりあえず全部のデータを集める」のではなく、目的に直結するデータだけを厳選することが重要です。
【具体的なデータ収集の例】
- 目的:「売上減少の原因を特定する」
- 必要なデータ :商品ごとの売上推移、顧客の購入履歴、販売地域、キャンペーン実施履歴、顧客属性(年齢、性別など)。
- データの探し方 :社内の販売管理システム、顧客データベース、過去の営業日報など。
- 目的:「Webサイトの離脱率が高いページを特定する」
- 必要なデータ :ページごとのアクセス数、滞在時間、離脱率、流入元。
- データの探し方 :Google Analyticsなどのアクセス解析ツール。
データの種類や探し方を事前に整理しておくことで、無駄な作業を減らし、効率よく分析を進めることができます。
ステップ3:データを整理・可視化する
集めたデータは、そのままでは全体像を把握しにくいものです。Excelのピボットテーブルやグラフを使って、データを整理・可視化することで、数字の羅列から 「傾向」や「特徴」 が見えてきます。
【具体的な可視化のテクニック】
- 折れ線グラフ:売上推移を時系列で見ることで、どの時期に売上が減少したか一目でわかります。前年比や目標値と比較することで、より深い洞察が得られます。
- 円グラフ:商品ごとの売上構成比を見ることで、売上の大部分を占める商品(パレートの法則)や、意外な売れ筋商品を発見できます。
- 棒グラフ:顧客属性ごとの購入数を比較することで、どの層からの売上が減少したかが見えます。これにより、ターゲット層の見直しやアプローチ方法の変更を検討できます。
- ピボットテーブル:複雑なデータを集計し、さまざまな切り口で比較・分析するための強力なツールです。たとえば、「地域別」×「商品別」の売上を簡単に集計できます。
可視化することで、数字だけでは気づきにくい変化や傾向を直感的に捉えることができるようになります。
ステップ4:仮説を立て、検証する
可視化したデータから見えてきた傾向をもとに、 「なぜそうなっているのか?」 という仮説を立てます。この仮説を立てる段階が、分析の最も重要な部分であり、あなたの思考力が試されるところです。
【仮説構築と検証の例】
- 見えた傾向:「夏場に特定の商品の売上が急増している」
- 仮説:「この商品は暑さに弱い顧客層に人気があり、夏場は他の商品より涼しい場所で売れているのではないか?」
- 検証:「データを使って、この商品の購入者の年齢層や、購入が行われた時間帯・場所を深掘りする。もし仮説が正しければ、他の商品とは異なる傾向が見られるはず。」
- 見えた傾向:「特定の営業担当者の売上が落ち込んでいる」
- 仮説:「この担当者は既存顧客へのフォローに時間を取られ、新規開拓ができていないのではないか?」
- 検証:「担当者の活動データを分析し、新規顧客へのアプローチ件数や、既存顧客との面談回数を調べて比較する。また、本人へのヒアリングも重要。」
この「仮説→検証」の繰り返しが、データ分析の醍醐味です。このプロセスを通じて、あなたは単なる数字の羅列から、 「ビジネスを動かすためのストーリー」 を導き出すことができます。
ステップ5:行動につなげる
検証の結果、仮説が証明されたら、それを 「次の行動」 に繋げます。分析の最終目的は、意思決定をサポートし、具体的な行動を起こすことです。
【行動への転換例】
- 分析結果:「特定の地域で売上が下がっている原因は、競合店がオープンしたことにある」
- 行動案:「その地域限定で顧客向けの特別セールを開催する」「競合店にはない強みを活かしたプロモーションを企画する」
- 分析結果:「Webサイトの特定のページで離脱率が高い原因は、説明が分かりにくいことにある」
- 行動案:「ページの文章を改善し、図やイラストを増やす」「ユーザーテストを実施して、さらに改善点を探す」
そして、その行動がどのような結果を生んだのか、再度データを分析することで、次の改善策へと繋がっていきます。このサイクルを回すことで、あなたの業務はPDCAサイクルに乗った、より効率的で成果の出るものになります。
1つの問いに1つの答えを出すだけでも立派な分析です。最初は小さな問いから始め、慣れてきたら複数のデータを組み合わせて複雑な問いに挑戦してみましょう。
初心者がつまずきやすいポイントと対策
データ分析の基本ステップを理解しても、実際にやってみるとつまずいてしまうことがあります。ここでは、よくあるつまずきポイントとその解決策を、より深く掘り下げて紹介します。
1. 数字を眺めるだけで終わる
【対策】必ず 「なぜ?」 を3回繰り返す 多くの初心者は、Excelの表を目の前にして、ただ数字を眺めて「ふーん、そうなんだ」と終わってしまいがちです。しかし、それでは何も新しい発見は生まれません。
この状態から抜け出すためには、常に 「なぜ?」 という問いを自分に投げかける癖をつけましょう。
【なぜ?の深掘り例】
- データ:「A商品の売上が先月より20%下がっている」
- なぜ?(1回目):「なぜ売上が下がったのか?」
- 答え:「他社の新商品に顧客が流れた可能性がある」
- なぜ?(2回目):「なぜ顧客は他社の商品を選んだのか?」
- 答え:「価格が安かった、あるいは機能が優れていたのかもしれない」
- なぜ?(3回目):「なぜ価格や機能で負けているのか?どうすれば勝てるのか?」
- 答え:「当社の商品の強みはサポート体制にある。そちらを訴求するべきだ」
このように掘り下げていくことで、表面的な数字の奥にある本質的な課題や、具体的な打ち手が見えてきます。
2. データが多すぎて混乱する
【対策】必要な範囲に絞る 「とにかくたくさんのデータを集めれば、何かヒントが見つかるはず」と、膨大なデータを前に途方に暮れてしまうことがあります。これは、まさに「目的」が不明確なまま分析を始めた証拠です。
データが多すぎる場合は、まず「どの期間のデータが必要か?」「どの商品のデータが必要か?」「どの地域のデータが必要か?」といった問いを立てて、分析の範囲を絞り込みましょう。
3. 難しい指標を使いがち
【対策】平均・割合・増減率など基本指標から始める 「高度な分析ツールを使っているから、難しい指標を使わなければならない」という強迫観念に駆られる必要はありません。ビジネスにおける多くの課題は、平均、中央値、割合、増減率といった、基本的な指標だけでも十分なヒントを得ることができます。
これらの指標を理解し、使いこなすだけでも、あなたの分析は格段に説得力を増すでしょう。
よくある質問とその答え(Q&A)
ここでは、データ分析の初心者が抱きがちな疑問に、具体的にお答えします。
Q1. 「統計の知識は必要?」
A. 高度な統計学の知識は、初めのうちは必要ありません。まずは平均・中央値・割合といった、基本的な指標の意味を理解し、計算できるようになれば十分です。ビジネスで求められる分析のほとんどは、これらの基礎知識でカバーできます。 高度な分析手法は、必要に迫られた時に、その都度学んでいけば問題ありません。
Q2. 「どのツールを使えばいい?」
A. まずは、あなたが使い慣れているExcelやGoogleスプレッドシートで十分です。これらのツールには、ピボットテーブルやグラフ作成機能など、基本的な分析に必要な機能がすべて備わっています。 もし、より大規模なデータを扱ったり、分析の自動化を検討したりする段階になったら、BIツール(Tableau、Power BI)や、プログラミング言語(Pythonなど)も選択肢に入れると良いでしょう。
Q3. 「データが社内に少ない」
A. 社内には、日報や売上台帳、顧客リストなど、あなたが思っている以上に多くのデータが存在するはずです。まずは身近なデータで分析の練習をしてみましょう。 また、国や地方自治体が公開している統計データ、マーケティング会社の公開レポートなど、無料で利用できるデータセットもたくさんあります。これらを活用して、分析の腕を磨くことも可能です。
まとめ:データ分析は「知識」より「回数」が重要
この記事で解説した通り、データ分析は決して難しい作業ではありません。
「目的を決め、正しい順番で進める」 だけで、ハードルは一気に下がります。難しい数式よりも、 「正しい問い」 を立て、シンプルな指標を使うことが何より重要です。
分析スキルは “知識”より“回数” で伸びます。小さな成功体験を積み重ね、その成果を業務に還元することで、スキルは自然と定着していくでしょう。
今日からあなたの業務データを使って、1つ分析を始めてみませんか? きっと、数字を見る目が変わり、仕事がもっと楽しく、面白くなるはずです。