最近怒りましたか?
皆さんは最近怒りましたか?それはどんなことに対して怒りましたか?また、その怒りに対して後悔しましたか?
「怒り」は人間が持つ自然な感情表現の1つであり、決して取り除くことはできません。そのため、私たちは怒りの感情と上手に付き合っていく必要があります。しかし、大切なのは怒った後に 「後悔」 したかどうかです。
「怒る」「怒らない」の分岐点には「後悔」があり、後悔するかしないかで怒るか怒らないかを決めることは非常に有効です。怒らずに後悔するのであれば、思い切り怒ったほうが納得感も違うでしょう。怒ってはいけない、怒らないほうが良いということでは決してないのです。
今回は、怒って後悔しないための方法「アンガーマネジメント」をご紹介します。アンガーマネジメントとは、文字通り怒りで後悔しないように自身の「怒りの感情」に気づき、その背景にある「考え方」を変えていくことで、自らの力で感情をコントロールできるようになるための方法です。これは職場における円滑なコミュニケーションの促進や、パワハラ・モラハラの抑制にも有効です。怒りの感情と上手に付き合えれば、よりよい人間関係を構築することができます。
「うまく怒る」 ことは非常に大切です。特に職場において「怒る」ことは、その場の人間関係や今後のコミュニケーションに大きな影響を及ぼす可能性があります。
今回の記事を通して、ぜひ一緒に「うまく怒る」方法を学んでいきましょう。
こんな人におすすめ!
- 最近怒って後悔したことがある人
- 部下を怒りでコントロールしているような気がしている人
- 怒りにおぼれない適切なフィードバックができるようになりたい人
この記事で学べること
- 怒りの感情が生まれるメカニズム
- 職場での不必要な怒りを防ぐためのコミュニケーション術
- 強い怒りをコントロールするための具体的なテクニック
- 感情的な「怒り」と建設的な「叱る」の違い
- 怒りの感情を自己成長のエネルギーに変える方法
1.怒りの構造を知る
まず、怒りの構造を知るところから始めましょう。怒りの構造を表すものとしてよく使われるのが 「三重丸の構造図」 です。

人はだれしも自分なりの価値観を持っています。一番内側の緑色の領域は、自分の価値観に当てはまっている、つまり自分の価値観と全く同じで受け入れられる領域です。この領域は、自分にとっての「当たり前」や「譲れない線」であり、満たされている状態では怒りは生まれません。
次に緑色の外側にある黄色の領域は、自分の価値観には当てはまっていないものの、受け入れることができる領域です。自分の価値観には合っていないため、ネガティブな感情になってしまうことはあるものの、怒るまではいかず、まだ受け入れられる領域になります。例えば、「朝8時に出社すべき」という自分の価値観に対し、同僚が「8時半出社」であっても、「まあ、仕事に支障がないならいいか」と許容できるような状態です。
そして最後に、一番外側の赤色の領域です。これは自分の価値観から大きく外れていて、我慢できない、受け入れられない領域になります。ここにきてようやく人は怒りの感情を持つようになるのです。この領域に踏み込まれたとき、「なぜあんなことをするんだ」と強い不満や怒りがこみ上げてきます。
人が生きていくうえで大切なのは、この黄色の領域を広げることです。黄色の領域を広げることで、自分の価値観にずれた考えであっても受け入れることができるため、怒りの感情が生まれることはありません。つまり、人に対して 「寛容」 であることが重要なのです。
昨今「ダイバーシティ」という言葉が年々社会に浸透しつつありますが、これは「自分と他人は違うことを受け入れること」を意味しています。多様な価値観を理解し、尊重する姿勢は、まさしくこの黄色の領域を広げることに他なりません。
自分の価値観に当てはまらないものをどれだけ許容できて、受け入れられるかが生きやすさにつながり、不必要な怒りを生まずに済むことになるのです。
2.職場で怒りを生まないために
この章では、職場で不必要な怒りを生まないために必要な考え方を2つご紹介します。
1. 対話による誤解の解消
まず1つ目が 「対話」 です。対話は、誤解によって生まれる怒りを制御するために最も効果的な手段です。私たちは相手の行動や言葉の表面だけを見て、その背景にある意図や事情を想像しがちです。その想像がネガティブな方向に向かうと、「なぜあんなことをするんだ」と怒りが生まれてしまいます。
きちんと面と向かって話すことで、相手の考え方や置かれている状況を深く知ることができ、誤解が生じることを防ぐことができます。また、対話によって自分が「これだけは許せない」という境界線をあらかじめ相手に知らせることができるので、お互いの間に分断が生じることを防ぐことができます。定期的な1on1ミーティングや、チームでの情報共有の場を設けるなど、対話の機会を意識的に増やすことが大切です。
2. 問題が生じたときに「WHY?」ではなく「WHAT?」で聞く
2つ目が、問題が生じたときに 「WHY?」ではなく「WHAT?」で聞く ことです。これは、怒りによるコントロールを防ぐために有効であると言えます。
「なぜ(Why)こんなミスをしたんだ?」と聞くことは、相手に自分を責められているというプレッシャーを与え、「自分を守らなければ」という心理にさせます。その結果、相手は言い訳をしたり、事実を隠したり、最悪の場合嘘をついたりといった行為に導かれてしまうことになります。
ところが、聞き方を「何が(What)あった?」に変えることで、矢印の方向を相手個人ではなく、問題そのものに向けることができます。「何が起こったのか」「原因はどこにあるのか」「どうすれば防げたのか」というように、問題解決に向けた建設的な会話をすることができるようになるのです。この聞き方は、問題を具体化し、その所在を適切に見つけることができる非常に有効な考え方です。
3.強い怒りへの対処法
どうしても怒りの感情が湧いてしまいそうなときはどうしたらよいのでしょうか?
怒りを素直に表すことも必要ですが、職場の会議中や重要な商談中など、怒りを表すのにふさわしくない場面もあるかと思います。
そんな時、怒りに対処するための方法が3つあります。
1. 頭の中で6秒ゆっくりカウントする
怒りの感情のピークは 6秒 といわれています。人は怒るとアドレナリンというホルモンが体内をめぐり、興奮状態や攻撃態勢となりますが、このアドレナリンが脳に到達し、理性が働くようになるまでには6秒ほどの時間差があるのです。そのため、心の中でゆっくり6秒数えることは、感情の波を一旦落ち着かせ、冷静さを取り戻すのに非常に有効です。
2. その場から離れる
怒りの感情をぶつけてしまいそうになったら、とりあえずその場から物理的に離れてみることが大切です。怒ってしまってからでは遅いので、落ち着くまでの時間は別の空間で過ごすようにします。トイレに行く、飲み物を取りに行く、少し外の空気を吸いに行くなど、行動に移しやすいシンプルな方法をいくつか用意しておくと良いでしょう。
3. 相手をコントロールしようとする自分に気づく
イライラの根本には、「相手に対して何か望んでいたのに裏切られた」「対応してもらえない」「自分の考えを理解してもらえない」といった期待の裏切りがあります。他人に厳しく、相手への期待が大きければ大きい人ほど、このような考え方をしてしまいがちです。しかし、他人を責めても何も変わりません。
自分の価値観を相手に押し付けることは、人間関係にマイナスにつながってしまうのです。
相手に期待しているからこそ、「こうなってほしい」という想いを一方的にぶつけるのではなく、その期待をきちんと伝えて、一緒に前に進めるようなマネジメントに切り替える必要があります。
4.怒ると叱る~理想的なフィードバックとは~
ここまで「怒る」ということに対して述べてきましたが、職場において若手メンバーの成長を促す上で重要なのは 「叱る」 ことです。一般的に2つの言葉の違いは以下のようになります。
言葉 | 目的 | 特徴 |
---|---|---|
怒る | なし(感情の爆発) | 相手を萎縮させ、信頼関係を損なうことが多い |
叱る | あり(相手の成長) | 相手に納得感を与え、行動を改善させる建設的なコミュニケーション |
ここで重要なのは、感情的に怒らないということです。相手を説得させるのではなく、納得できる叱り方をすることが、健全なフィードバックには不可欠です。
社内でフィードバックをする際に必要なのが、この「叱る」の考え方でいることです。相手の人が成長することを見込んで、納得してもらう話し方をすることが重要なのです。
そして、相手の成長を促す良いフィードバックには、5つのステップがあるといいます。
ステップ1. 何をしたのか事実のみを伝える
まず、相手が何をしたのかを客観的な事実のみで伝えます。「いつも遅い」ではなく、「今日のミーティングの資料提出が締め切りを30分過ぎていた」のように具体的に話します。事実に対しては相手も冷静に受け止め、納得せざるを得なくなります。
ステップ2. 自分(叱り手)の気持ちを伝える
次に、自分(叱り手)がその事実をどう感じたのかを伝えます。「あなたの提出が遅れて、私はクライアントとの打ち合わせ準備が十分にできず、不安を感じた」のように、「私(I)」を主語にして気持ちを伝えます。これにより、相手は自分のしたことが周囲にどのような影響を与えたかを冷静に理解し、ロジカルに受け止めることができます。
ステップ3. 「どう思う?」と相手の考え、気持ちを確認する
相手の意見を聞くことで、一方的な叱りつけではなく、対話の姿勢を見せることができます。その場で謝罪の言葉があれば、それでOKです。次に失敗しないための対策を一緒に考えることができます。
もし、弁明があればここで説明するはずです。失敗した理由があれば、相手は説明するでしょう。その弁明を受けて、「そういう時はどうすることが必要だと思う?」と問いかけます。ここから、今後そのような場面の対策や遭遇しないための予防策を話し合うことができます。
ステップ4. フォローする
相手が反省して大きく落ち込んでいる時は、適切なフォローが必要です。慰めやねぎらい、思いやりの言葉を伝えます。もし自己開示できるならば、自分自身の失敗談や共感していることを示すエピソードを話すと効果的です。「私も新人の頃は同じような失敗をしたことがあるよ。だからあなたの気持ちはよくわかる」といった言葉は、相手に大きな安心感を与えます。
ステップ5. 今後の期待を伝える
最後に、今後の期待を伝えることで相手は大きな安心感を得ることができます。「次は期待しているよ」「君ならできるはずだ」といったポジティブなメッセージは、相手のモチベーションを高め、次へと向かう力になります。
5.「怒る」から始まる自己成長
アンガーマネジメントは、ただ怒りを抑え込むためのテクニックではありません。それは、自分自身を深く理解し、成長するためのツールでもあります。
怒りの感情が湧き上がったとき、それは 「自分の価値観が侵害された」 というサインです。このサインを無視せず、「なぜ自分は今怒りを感じているのだろう?」と自問自答することが、自己理解の第一歩となります。
例えば、「部下が報告を怠った」という事象に対して怒りを感じた場合、その背景には「報告は社会人として当然の義務だ」という自分の価値観があります。この価値観が、どの程度まで許容できるものなのかを改めて見つめ直す機会になります。
「なぜ?」と問いかけるのではなく、「何が原因でこの状況になったのか?」と事実を客観的に見つめ直すことは、問題の本質を見抜く力を養います。これは、ビジネスにおける課題解決能力にも直結するスキルです。
怒りは、決してネガティブな感情だけではありません。怒りを建設的な力に変えることで、自分自身の価値観を明確にし、コミュニケーションのあり方を改善し、チームや組織をより良い方向へ導くための原動力にもなり得るのです。
6.実践!アンガーマネジメントの具体的なトレーニング
アンガーマネジメントは知識として知るだけでなく、日々の生活の中で実践することが大切です。ここでは、日常生活で取り入れられる具体的なトレーニング方法をいくつか紹介します。
1. 怒りの「記録」をつける
自分がどのような状況で、どんな感情を抱き、どう反応したかを記録してみましょう。
- いつ: 怒りを感じた日時
- どこで: 職場の会議中、自宅など
- 誰と: 上司、部下、家族など
- 何があったか: 具体的な出来事
- どう感じたか: 怒り、イライラ、悲しみなど
- どう対処したか: 大声を出した、黙り込んだ、深呼吸したなど
この記録を続けることで、自分がどのような出来事に怒りを感じやすいか、その怒りの根本原因は何かを客観的に分析できます。パターンが見えてくると、「あ、またこの状況だ」と気づき、怒りの感情が湧き上がる前に冷静さを保つことができるようになります。
2. 「べき」を疑う
怒りの感情の多くは、「こうすべきだ」「こうあるべきだ」という自分の価値観が、現実と食い違ったときに生まれます。
「部下は報告すべきだ」「上司はこうあるべきだ」「妻は家事を手伝うべきだ」など、自分の心の中にある「べき」を意識してみましょう。そして、「本当にそうだろうか?」と自問自答してみます。
例えば、「部下は報告すべきだ」という考えに対し、「もしかしたら、報告の仕方を教えていないかもしれない」「忙しくて報告のタイミングを逃したのかもしれない」と別の視点を持つことで、相手への許容範囲(三重丸の黄色の領域)が広がります。
3. リラックス法を取り入れる
怒りを感じやすい人は、常に心身が緊張状態にあることが多いです。日頃からリラックスできる時間や習慣を持つことで、怒りの感情が湧き上がりにくい状態を作ることができます。
- 深呼吸: 怒りを感じたら、ゆっくりと息を吸い込み、吐き出す深呼吸を数回繰り返すだけでも、心拍数が落ち着き、冷静さを取り戻せます。
- 軽い運動: ウォーキングやストレッチなど、軽い運動はストレスホルモンを減らし、気分をリフレッシュする効果があります。
- 瞑想(マインドフルネス): 瞑想は、自分の感情を客観的に観察する練習になります。「今、自分は怒りを感じているな」と、感情を第三者視点で捉えることで、感情に流されにくくなります。
7. 怒りの感情を味方につける
怒りは決して敵ではありません。アンガーマネジメントは、怒りの感情を「良い怒り」と「悪い怒り」に分類し、建設的に活用するスキルです。
悪い怒りとは?
- 感情的な爆発: 相手を攻撃したり、一方的に非難したりする怒り。
- コントロール欲求: 自分の思い通りにならないことへの苛立ち。
- 後悔: 怒った後に「あんな言い方をしなければよかった」と後悔する怒り。
良い怒りとは?
- 正義感や使命感: 不正や不公平に対して行動を起こす原動力となる怒り。
- 自己改善のモチベーション: 「もっとうまくやりたい」という悔しさからくる怒り。
- 問題解決のきっかけ: チームの課題やシステムの不備を発見し、改善へと導く怒り。
怒りの感情が湧いたとき、それが 「悪い怒り」 なのか 「良い怒り」 なのかを瞬時に判断できるようになると、感情に流されず、適切に行動できるようになります。
例えば、「部下のミス」に対して、感情的に怒鳴り散らすのは「悪い怒り」です。しかし、「このミスが再発しないように、チームの仕組みを変えなければならない」という思いから生まれる行動は「良い怒り」です。この違いを理解し、怒りを問題解決のエネルギーに変えることが、アンガーマネジメントの最終的な目標です。
8.おわりに
怒りは人間にとって自然な感情ですが、その表し方次第で人間関係や職場の雰囲気は大きく変わります。本記事で紹介したアンガーマネジメントは、怒りを抑え込むのではなく、自分の価値観や思考の背景を理解し、適切に表現するための方法です。
誤解や期待のすれ違いから生じる衝突は、相手を責めるのではなく対話を重ね、事実を共有することで防げます。強い怒りが湧いたときは、6秒カウントする・その場を離れる・コントロール欲求に気づくといった工夫で冷静さを取り戻しましょう。また、感情的に 「怒る」 のではなく、相手の成長を促す 「叱る」 姿勢を意識することが重要です。
怒りを建設的な力に変え、信頼関係を深めながら前向きな成果につなげる。それこそが、職場や日常での健やかな人間関係を築く第一歩です。この記事が、皆さんにとって怒りと上手に付き合うヒントになれば嬉しいです。