ビジネスシーンにおける問題解決のプロセス
こんな人におすすめ!
- 仕事で生じた問題に対し、適切に対処できるようになりたい人
- 問題の根本的な原因を突き止められるようになりたい人
- 問題を解決するのに効果的な解決策を導きたい人
1. その場しのぎの解決策、繰り返していませんか?
あなたは仕事上で問題が生じたときにどのように対処しているでしょうか? つい「これでいけそうだ」と思い付きの解決策に飛びついてしまい、うまくいかず結果に結びつかないということはないでしょうか? いきなり思いついたアイディアに飛びついてしまうと、非常に非効率的であり、思うような効果が上がらない可能性が大きいです。さらに効果が上がらなかった場合、何がいけなかったのか、どうすればよかったのか検証することも非常に難しくなります。このように場当たり的な解決策の実行を繰り返していてもせっかくの努力が無駄になってしまいます。そのために大切なのが問題解決のプロセスに沿って適切な解決策を導くことです。この問題解決のプロセスを使うことで次のような利点が得られます。
- 解決策の精度が上がる 感覚ではなく論理に基づいて考えるため、問題の本質を捉えやすく、的確な対処ができる可能性が高まります。
- 検証と修正が可能になる 仮にうまくいかなかった場合でも、どこで判断を誤ったのかを振り返ることができ、次に活かしやすくなります。
この記事ではビジネスの現場で役立つ「問題解決の思考法と手順」を分かりやすく解説していきます。日々の仕事にすぐ活かせる内容ばかりですので、ぜひ実践のヒントにしてみてください。
1. 問題の定義と『あるべき姿』の共通認識とは?
問題解決のプロセスを踏んでいくにあたってまず大切になってくるのがそもそも「問題とは何か?」という問いです。問題解決のプロセスは問題を定義するところから始まります。
問題とは「あるべき姿と現状のギャップ」である。
これが問題を考える基本的な考え方です。つまり現状だけを見ても、それが問題かどうかは判断できないのです。 例えば、「ある商品Aの売上が前年度より10%下がった」という事実があったとします。 あなたはこれを‟問題“と見なすでしょうか?
結論から言えば、この一文だけでは問題かどうかは判断できません。なぜなら『あるべき姿』が不明瞭でこの一文からでは判断できないからです。 例えば、業界全体が不況で同業他社が50%近く売り上げを落としていたとしたら? または新商品開発に力を入れていて商品Aの売上は15%以上下がらないことを目標としていた場合はどうでしょう? このような背景を踏まえると「ある商品Aの売上が前年度より10%下がった」という事象はむしろ目標を達成している状況であり、問題どころか良好な成果と言えるのです。
このように「現状だけを見て問題かどうか判断する」のは危険です。 あらためて問題とは「あるべき姿と現状とのギャップ」です。したがって『あるべき姿』を明確にしない限り、問題は定義することができないのです。 また『あるべき姿』は人によって異なります。自分は問題だと思っていなかったが上司に怒られた、自分は深刻な問題だと思っていたが周りは関心を示さなかった、というすれ違いの事象は共通認識がないために起こってしまうのです。 特に組織で仕事をするうえでは、「どこを目指すのか」「何が達成された状態なのか」をチームで共有することが不可欠です。 したがって、問題解決のファーストステップとしてやるべきことは『あるべき姿』を明確にし、それを関係者や組織で共有することです。 その上ではじめて「現状とどれだけギャップがあるのか」=「問題の有無・深刻さ」を正しく把握することができるのです。
2. 問題解決の思考法―ロジックツリー―
問題解決のプロセスは大きく4つの段階から成り立ちます。
- 【問題解決の4ステップ】
- 問題の明確化(what)
- 問題の特定(where)
- 原因の追究(why)
- 解決策の立案(how)
このうち、②の「where(どこに問題があるか)」、③の「why(なぜ問題が起きたのか)」、④の「how(どうすれば解決できるか)」といったフェーズで役立つのが、ロジックツリーという思考法です。 ロジックツリーとは**モレなくダブりなく(MECE)**を意識して上位概念を下位概念に細かく分解していくことで、問題の全体像を可視化し、論理的に分析・整理するための手法です。 たとえば「売上が落ちた」という問題に直面したとき、「何が原因なのか?」「どの打ち手が有効か?」を闇雲に考えていては、見落としや思い込みが生じやすくなります。 ロジックツリーを使えば、全体を俯瞰しながら一つ一つの問題を細分化していけるため、本質的な原因や優先順位の高い課題を見つけやすくなるのです。
例えば転職フェアを企画した際、参加者が思うように集まらなかったとします。 この時ロジックツリーを使えば、次のように分解できます。
- まず「参加者」を年代別に分ける(20代/30代/40代/50代以上)
- さらに各年代を「業種別」に分ける(IT/製造/医療/販売など)
- それによって「どの年代・業種の人が集まりやすいのか/集まりにくいのか」が見えてくる
- そこから主要ターゲットに合わせた訴求方法(媒体・内容・時間帯など)を考えることができる
このようにロジックツリーを使えば、原因や仮説を抜け漏れなく洗い出し、戦略の精度を上げることができます。
そしてロジックツリーには主に2つの分解アプローチがあります。
- 層別分解 全体を複数の部分に切り分ける足し算型の分け方です。性別や年代、職業別で切り分けるものがこれにあたります。
- 変数分解 これは事象を変数で切り分ける、掛け算や割り算といった考え方です。例えば売上=単価×販売数量、利益率=利益÷売上に切り分けられると思います。売上が下がったのは平均単価が下がったからなのか、販売数量が減少したからなのか、どちらに問題があるのかといった見方でどこに問題がどこにあるのか明確に分析できます。
このようにロジックツリーは上位概念を下位概念に細かく分類していくことで問題に対し体系的なアプローチを試みることができる思考法です。 思考をスピードアップさせて問題解決に取り組むことができ、また全体像を見る意識付けによって思考の幅を広げ、見落としを減らすことができるのです。
3. 問題解決のプロセス
それでは問題解決のプロセスを順に追っていきましょう。
問題の明確化(what)
問題解決の出発点は「何が問題なのか」を定義することです。 ここで重要なのは、「現状」と「あるべき姿」のギャップを数値などで具体的に把握することです。 例えば売上10億円を目標としていた時に現状が売上8億円だったとしましょう。これはあるべき姿に対して売上が2億円足りていないことになります。したがって問題は目標に対して売上が2億円届いていないことになるのです。 問題を曖昧なままにすると、原因分析や施策立案もぼんやりしたものになってしまいます。まずは数字や事実を使って問題を“見える化”しましょう。
問題箇所の特定(where)
次のステップはどこで問題が起きているのか明確にしていきます。 先ほどの売上不足の例でいえば、新規顧客の獲得がうまくいっていないのか、既存顧客のリピート率が下がっているのかといった視点で、売上減少の内訳を明らかにする必要があります。 ここで役立つのが前章で紹介したロジックツリーです。ロジックツリーを活用することでより根本的な問題の所在を突き止めることができるのです。
ここで注意したいのが問題の所在を突き止める際にインプット(原因、打ち手)とアウトプット(結果)を混同してしまうことです。 例を示すと、インプットとは商品、価格、販売チャネル、プロモーションといった原因を示す指標であり、対してアウトプットとは来店客数、客単価、固定費といった結果を表す指標になります。 まずはアウトプット(結果)にどのような変化が起きているかを把握し、そこからインプット(原因)をさかのぼって分析するのが正しい順序です。 インプットから考え始めると、どこに打ち手を打てばいいか判断が難しくなりがちです。 まず結果を見る。次にその変化に最も影響を与えている要因は何か?を考えることが、根本的な原因に迫るための鍵となります。
原因の追究(why)
3つ目のステップが問題の原因を突き止めるフェーズです。 既存顧客の離脱が原因だと分かったなら、「なぜ離れてしまったのか?」を多角的に分析し、最も強い影響を及ぼしている原因を特定することが重要です。 原因を追究するうえで大切なのは、「本当にそれが原因と言えるのか?」を検証することです。 そのためには、次の3つの条件を満たしているかをチェックしましょう。
- 時間的順序が正しいこと 問題の発生したタイミングとその引き金となった事象が時間的に正しい順序に並んでいないと適切な原因を突き止められていないということになります。 商品Aのサービス変更が4月に行われ、顧客離れが5月に起きたとなっていれば時間的順序は正しいため、4月のサービス変更が顧客離れの一因となった可能性があると言えます。
- 相関関係が存在すること 相関関係とはある値の変化に合わせ、もう一つの値も変化する関係である。 身長が伸びれば体重も増加し、勉強時間を多く確保するほどテストの成績が良くなるような関係のことを言います。 商品Aの売上が下がった時期を同じくして競合の商品Bの売上が伸びていたとするならば、相関関係があると言えそうです。
- 第3因子が存在しないこと 第3因子とは2つの事象に共通する別の要因のことを指します。 例えば商品Aの売上が下がり、同時に商品Bの売上が上がったとして、相関関係があるとみなされるかもしれません。 しかしここに高温多湿という天気の要因が存在し、商品Aはその影響をもろに受け、売上を下げていて、商品Bは天気が逆に追い風になって売上を伸ばしていた場合、相関関係があったとしても第3因子が存在していたという理由で因果関係は成立しないのです。
以上3つの条件が成立してはじめて因果関係が成り立っていると言えます。そうでなければ、それはただの偶然や誤認の可能性があるのです。
解決策の立案(how)
問題解決最後のプロセスとなるこのフェーズでは想定された原因に対して解決策の選択肢を洗い出し、選択することになります。 まず解決策として考えられる案をできるだけ洗い出し、解決策のオプションを広げます(発散思考)。 次に判断軸を決め、問題解決に最も有効な解決策を選択することになります(収束思考)。 ここでの判断軸はコストや実現可能性、効果やスピードといったものになります。 その時の状況を判断して、何が最も優先される判断軸となるか判断し、選択することが大切です。 状況に応じて、何を最も重視するかを明確にすることで、最適な選択ができるようになります。
解決策を実行するときの注意点としては2点あります。
- 手段を目的化しない 解決策を実行することが目的ではなく、問題が解決できるかどうか常に考える必要があります。 実行する施策が問題を解決するにあたって不十分なものだと判断した場合は解決策を考え直す必要があるからです。 また、解決策を実行するすべての人に目的を伝えるようにすることも大切です。
- 思わぬ副作用に注意する 解決策を実行する際には思わぬ副作用(コスト増、他部門への負荷など)が生じることがあります。 大切なのは副作用に対処できるように対策を講じ、副作用が生じても解決策を実行し続けるメリットがあるのかどうか適切に判断することです。 副作用すべてが悪いのではなく、副作用が生じてでも継続するべき施策なのかまたは撤退すべきなのか、についての判断軸を持っておく必要があります。
4. おわりに
ビジネスにおける問題は、ただ直感で動いていては本質を見誤り、労力ばかりが空回りしてしまいます。 だからこそ、『あるべき姿』とのギャップを見極め、ロジックツリーなどの思考法を活用して、段階的に原因を追究し、効果的な打ち手を導く力が求められます。 本記事で紹介した4つのステップを意識すれば、課題に対して冷静かつ論理的に向き合えるようになるはずです。 問題解決のスキルは、経験を通じて磨かれる“実践力”です。 日々の業務の中で少しずつでも意識し、積み重ねていくことが、あなた自身のビジネス力を確実に高めてくれるでしょう。