なぜコンサルは議事録作成を重視するのか?
議事録作成は、会議参加者の中で最も下位の者のタスクではなく、あくまで役割分担です。迅速かつ構造的に議論をまとめられるスキルは、上司やクライアントに非常に喜ばれます。
- プロジェクトの円滑な進行: 「言った言わない」といった問題を防ぎ、プロジェクトを円滑に進める上で不可欠です。
- 新規プロジェクトの獲得: クライアントの細かなニーズを捉えることは、新規プロジェクト獲得にも繋がり得ます。
- 個人のスキル評価: ジュニアコンサルタントにとっては、自身の能力を示す数少ない機会であり、議事録の品質がスキル評価に直結すると言っても過言ではありません。議事録作成の巧さは、場数を踏むほど向上します。
「議事録」と「議事メモ」の違い
一般的な事業会社で求められる議事録は、単なる「発言録」や通常の「議事録」のレベル(議論内容の羅列や簡単な結論・宿題の記載)が多い傾向にあります。しかし、コンサルタントに求められるのは、さらにレベルの高い 「議事メモ」 と呼ばれるものです。
議事メモと通常の議事録の最大の違いは、議論内容を【論点ベース】で構造化し、会議で立てた仮説がどう変化したか、次に議論すべき論点や問い、そして次のタスクまで記載することです。これは、単なる記録ではなく、次に繋がる思考やアクションが盛り込まれたものと言えます。
コンサルタントの世界では、「議事メモ」作成を任されることが「大戦力」として認められるサインとなります。
議事録の必須要素と構造化
議事録に必須の要素は、以下の三つです。
- 会議で達成したい目的・ゴール
- 議論により到達した決定事項・宿題事項
- それらを繋ぐ議事内容
中でも、議事内容は最も重要視されます。単に議論内容を時系列で書き連ねるだけでは不十分で、議論した内容を、テーマ間の関係性を理解した上で記述することが求められます。そのために極めて重要となるのが 「構造化」 です。
コンサルティングファームでは、この構造化をピラミッド・ストラクチャーを用いて行うことが推奨されます。これは、「議事録の構造化」と「ピラミッド・ストラクチャーで会議を再現すること」が同義であると考えられるためです。具体的には、議論された議題ごとに、「議論により到達した結論」を先に書き、その後に「その結論が導き出された討議の文脈・根拠、または、その結論の補足」を記載するという順序で記述します。
議事録作成の具体的なステップとコツ
議事録の質を高めるための具体的なステップとコツは以下の通りです。
1. 会議前の準備:アジェンダとゴール、仮説の設定
会議の質そのものにも影響しますが、議事録作成の観点からも、会議の アジェンダ と達成したい ゴール を常に意識的に準備することが重要です。それぞれのテーマについて、どのような結論になるか仮説を立てておくと、議論の要点を捉えやすくなります。
2. 会議中のメモ取り
会議中は、事前に用意したアジェンダを意識しながら、議論したテーマと結論を箇条書きにしていきます。想定外のテーマや結論が出ることもありますが、メモを元に後で整理するため、要点を捉えることが重要です。タイピング速度を上げる練習や、予測変換の活用が効率化に繋がります。議論の流れや質疑応答など、参加者が重要視する部分を捉える意識を持ちましょう。
3. 会議後の議事録作成:メモの編集と肉付け
会議が終わったら、メモを元に議事録を作成します。
- 口語体(話し言葉)を 文語体(書き言葉) に修正します。
- 余計な修飾語を削除し、簡潔な文章にまとめます。曖昧な表現は避けましょう。
- 議論の結論に至った理由を明確に記載します。議論中に曖昧だった点も、文字に起こすことで明確な共通認識を築けます。
- 上記で作成した骨子に沿って、実際の発言内容を肉付けしていきます。
- 初めて読む人にも伝わるように、必要に応じて背景や前提を補足します。ただし、重要な意思決定の会議など、話した内容以外は書けない会議では注意が必要です。
4. レビューと共有
作成した議事録は、まず 自分で読み返してセルフレビュー を行います。誤字脱字や冗長な表現がないかを確認し、特に過去に指摘された点に注意します。その後、上司や会議参加者に内容の認識齟齬がないか確認 してもらいます。議事録はできるだけ会議当日か遅くとも翌日には共有することが望ましいです。
正確性と速報性のバランス
議事録作成において、正確性 を優先すべきか、速報性 を優先すべきかは、その議事録の目的や届け先によって判断する必要があります。
- 正確性優先: クライアントへの納品物となる議事録や、後のシステム要件定義などに直結する重要な議事録では、正確性が最優先です。誰が・どのような文脈で・どのような発言をしたか、発言者、議論の流れ、発言内容を正確に描写する必要があります。クライアントの発言はニュアンスまで正確に書き写し、勝手に要約しないことが重要です。会議を録音しておき、聞き直して曖昧な点を無くしましょう。重要な議事録であれば、1時間の会議に3時間かけても問題ありません。
- 速報性優先: シニアコンサルタントが会議直後に資料修正に取りかかるような内部的な議事録では、速報性が重要です。会議中に議論を聞きながらメモを整形し、会議終了直後に展開するようなスピード感が求められます。
まとめ
コンサルタントにとって、議事録作成は単なる記録作業ではなく、自身の 論点理解力 や 構造化力 を養う重要な訓練の機会です。質疑応答や議論の理由、次のアクションまで含めて構造的にまとめ、目的と読者に応じた正確性・速報性のバランスを見極めることで、より価値の高い議事録を作成し、ビジネスパーソンとしての評価を高めることができます。